自然農では、農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てるわけですが、農薬や化学肥料がない時代の人達はどのように野菜を栽培していたのか先人達の知恵を知ることは、現在の自然農にも何かヒントになるだろうという思いから歴史を紐解いてみました。
また自分の菜園がある地域(小諸周辺)でどのような野菜が適しているのかという視点でも昔からこの地方で栽培されていた野菜やその作付け方法についても知りたくなりました。
まずは地元の図書館で町史などの資料を調べるところからスタートしてみると、長野県佐久地方の江戸時代の農作業の様子を伝える貴重な文献が残っていることがわかりました。
その文献は、『家訓全書』(『農業全書』や『耕作全書』とも呼ばれています)という江戸時代中期(宝暦十年・1760年)に佐久郡片倉村の豪農・依田家の家主・依田惣蔵徳英(よだそうぞうのりひで)が子孫のために著した文書です。
この文書を研究して現代語に訳して解説したものが『日本農書全集24巻』(社団法人農山漁村文化協会)におさめられています。
これを読むと当時の百姓の暮らしぶりがよくわかります。年間を通じた農作業の様子もかなり詳しく書かれていてとても参考になります。
今回は、その文献の中から江戸時代にどのような肥料が使われていたのか紹介していきます。
当時の肥料の作り方や使い方からまさに持続可能(サスティナブル)な農業が行われていたことがわかってとても興味深い内容です。
早速いってみましょう!
江戸時代中期頃(1700年代)の肥料の作り方や使い方とは?佐久地方の事例から
当時は畑のまわりの草や育てている麦や稲の残渣が肥料として利用されていたようです。
文書の中から肥料として使われていたものをランダムに挙げていきます。
なかなか興味深いですよ~(^^)
今でも使っているものがありますね。
ぬか
籾殻のこと。現代でいうところの玄米を精米したときでる「ぬか」ではなく大部分は籾殻です。当時は基本的に玄米食だったので玄米を精米して白米にするというのはかなり特別なことでした。
籾から玄米にするときに出てくるのが籾殻です。この籾殻を「ぬか」と呼んでいたんですね~!
文書の中では、大豆や麦の肥料として使うと良いと書かれています。
つまじりごゑ
料理の残り物や野菜くずなど台所から出るような雑物を腐らせた肥料のことです。
今でいうところの生ゴミ堆肥のようなものでしょう。
残念ながら「つまじりごゑ」の作り方は記載がありませんでした。
粟、ささげ、小豆の肥料にはこのつまじりごゑが良いと書かれています。
かりづミ
丈の長い刈草をうねの間の低いところに敷きこんで肥料にします。
敷き込んだあとに刈草と土を切り混ぜることと書かれています。
大根を蒔く前に畑にこのかりずみをおこなうと良いそうです。
下地(しもじ)
水肥(液体肥料)のことで、炊事ででる雑水をとっておいて腐らせたもの。
俗に「流し先」というそうです。
米の研ぎ汁などのイメージですかね~。
下肥(しもごえ)
いわゆる人糞(大便)を腐熟させた肥料ですね^^;
日本では化学肥料が登場するまでは普通に畑の肥料として使われてきました。
今では、寄生虫の問題などがクローズアップされて使用は禁止されていますけどね。
この下肥にぬかを混ぜてよく腐熟させた肥料も蕎麦の肥料に良いと書かれています。
ふりこへ
堆肥と下肥や草などを焼いた草木灰を混ぜた肥料のこと。
厩肥(きゅうひ)
刈った青草や稲藁や麦ワラを馬の厩舎に入れて、馬に踏ませることで馬の排泄物などと混ざり合って良い肥料になるそうです。
厩肥は、主に田んぼの元肥として使用されていたようです。
当時、馬は大事な労働力でしたからそこそこの規模の農家には1頭は馬がいて農作業や運搬に利用されていたんですね。
いまでは馬の代わりにトラクターや耕運機があるという感じでしょうか^^;
文書の中で登場する「肥(こゑ)」については、以上のものです。
他にも文書の中では、肥の作り方を作物別に説明している箇所もあります。
その項目もとても興味深いので紹介しておきますね!
『農業全書』にある作物別の肥料の作り方(レシピ)を紹介!
作物別に詳しく書かれていますが、混ぜ合わせる分量などは不明です。
麻、からむしの肥料
肥料の作る時期は、苗代づくりが終わってから作り始めるようにと書かれています。
堆肥に下肥を加えて、それをよく踏んでよく混ぜ合わせるてつくるそうです。
ひえの肥料も同じように作るとあります。
※からむし イラクサ科の多年草です。皮の繊維で布を織ったり、縄の材料
大豆の肥料
ぬか(籾殻)を使うそうですが、養分が多い畑の場合は肥料はまかないようと注意もあります。
蕎麦の肥料
ぬか(籾殻)と灰を入れた下肥を混ぜて使うそうです。
蕎麦の種を蒔く10日前に肥料を作っておくこと。
下肥を入れないと丈が伸びずに収量が少ないという指摘もあります。
また干ばつにも弱いと書かれています。
大根や漬菜(漬物にする葉物野菜)の肥料
堆肥に下肥を踏み混ぜ、灰をたくさん入れて押し固めておくとあります。
早目に作っておいて準備しておくこと。
また、種を蒔く時に米ぬか(籾殻)と一緒にして蒔くこととあります。
大麦の肥料
元肥には、堆肥に下肥をたくさん入れて踏み混ぜたものを使うこと。
まき溝に施す肥料(元肥)について
種を蒔くときにそのまき溝に入れる肥料(元肥)は、籾殻と灰を入れた下肥を混ぜておいたものを使うとあります。
小麦にはその肥料を元肥、追肥に使って良いそうです。
下肥を加えた場合は、どんな肥料でも灰を入れないと固まってしまってほぐれないなので使いにくいから注意するようにと書かれています。
堆肥の作り方
6月の土用前に堆肥の一番出しをするときは小便をかけて三度切り返すとあります。
2番出しのときは、2,3度切り返してから春の作物に使うとよいそうです。
春に雑草が生えてきたらこまめに刈りとり、青草は1回でも2回でもできるだけ多く刈り込んで肥料にすると良いと書かれています。
文書に書かれている堆肥とは、いわゆる雑草堆肥のことのようです。
基本的には野積みをしておいて腐熟させていきます。
ちょうど刈草の野積み堆肥の写真資料があったので引用させてもらいました。
畑の一画に刈草を野積みしておいて小便をかけて何度か切り返して堆肥化させていたようです。
なるほど~! 今はこういう光景をみなくなりましたね。
まとめ
江戸時代中期に書かれた古文書『農業全書』から当時の肥料に関するものをピックアップして紹介してきました。
当時の肥料についてかなり詳しくわかりますね。
炊事からでる生ゴミの活用や排水も肥料として活用したり、雑草もうまく活用している様子がよくわかります。
また、人間や動物の排泄物も貴重な肥料として活用しているのは、昔からの知恵なんでしょうね。
すべてが循環していて循環型社会がうまく機能していた時代だと思います。
現代社会でも見直してみるヒントがたくさんあるよう思います。
今回紹介した『農業全書』は、まだまだ興味深い農作業のいろはが書かれているのでおいおい紹介していきます。
(参考文献)
- 『日本農書全集 第24巻 農具揃(飛騨)』丸山 幸太郎,大井 隆男 社)農山漁村文化協会 1981.12
- 『望月町誌 第4巻 近世編』望月町誌編纂委員会 1997.3
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