雑草対策の全面耕起は、本当に必要なのか?―地中の昆虫から考える不耕起の意味

不耕起栽培のメリット 虫対策

畑に草が増えてくると、耕うん機をかけて一度きれいにする。

家庭菜園でも一般的な農地でも、よく見かける光景です。

土を反転させれば、地表の草は一気に消え、畑はきれいになります。
見た目にも「リセットされた」ように感じます。

けれども、そのとき本当にリセットされているのは、雑草だけなのでしょうか。

土の中には、植物の根や微生物、ミミズだけでなく、生活史の一部を地下で過ごしている昆虫もいます。

地中に巣を作るもの。
幼虫や蛹の状態で過ごすもの。
冬を土の中で越し、春になるのを待っているもの。

畑の上から見れば何もいないように見えても、土の中では次の季節へ向けた生命の営みが続いています。

2026年、ドイツの研究チームが発表した論文

“Reducing ploughing promotes ground-nesting flying insects”

(訳:耕起を減らすことで地中営巣性の飛翔昆虫が増加する)

は、耕起がそうした「地下で生活史を送る飛翔昆虫」にどのような影響を与えるのかを調べた研究です。

その結果、強い耕起を行った場所では、土壌から羽化してくる昆虫のバイオマスが大きく低下していました。

今回はこの研究を手がかりに、

「雑草をなくすために、畑全体を毎回耕す必要は本当にあるのか」

ということを、自然農の視点から考えてみたいと思います。


2026年の研究が調べた「土から羽化する昆虫」

今回紹介する研究は、Christopher Hellerichらによって行われ、2026年に学術誌『Agriculture, Ecosystems & Environment』に掲載されました。

研究地域は、ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州、上部ライン渓谷です。

研究チームは、農業地域に設けられた12か所の多年生野草帯を対象に、2023年と2024年の2年間にわたって調査しました。

それぞれの野草帯を、

  • 耕さない区画
  • プラウで耕起する区画

に分け、昆虫の発生量を比較しています。

耕起には一般的なモールドボードプラウが使われ、深さはおよそ20〜25cm

かなりしっかり土を反転させる耕起です。

この研究で特に興味深いのが、昆虫の調べ方です。

一般的な昆虫調査では、捕虫網や黄色水盤などを使い、その場所を飛んでいる昆虫を捕まえることがあります。

しかし、それでは「その場所で生まれた昆虫なのか」「たまたま飛んできただけなのか」が分かりません。

そこで研究チームは、地表約2.2㎡を覆う**羽化トラップ(emergence trap)**を設置しました。

つまり、

実際にその土の中から羽化してきた昆虫を捕まえた

のです。

この方法によって、土壌を営巣場所や発育場所、越冬場所として利用していた昆虫に対する耕起の影響を、より直接的に調べることができました。


耕起区では昆虫バイオマスが平均62.5%低下

この研究で最も注目すべき結果は、昆虫バイオマスの大きな違いです。

耕起した区画では、地中から羽化してくる飛翔昆虫の1日あたりのバイオマスが、

無耕起区より平均62.52%低くなりました。

言い換えると、耕起区に残った昆虫バイオマスは、無耕起区のおよそ37.5%です。

かなり大きな差です。

ただし、ここは誤解してはいけないポイントでもあります。

この数字は、

「耕うん機を使うと昆虫の62.5%が死ぬ」

という意味ではありません。

また、

「ミツバチが62.5%減った」

という意味でもありません。

この研究で示されたのは、

深さ20〜25cmのプラウ耕を行った野草帯で、土壌から羽化してきた飛翔昆虫群集全体のバイオマスが平均62.5%低かった

ということです。

対象には、ハチ目、ハエ目、チョウ目、コウチュウ目、バッタ目、ハサミムシ目など、さまざまな昆虫が含まれていました。


土の中は、昆虫にとって「空白」ではない

この結果を理解するうえで大切なのが、

畑の土は昆虫にとって単なる土ではない

という視点です。

昆虫の中には、一生を地上で過ごすものばかりではありません。

たとえば、

  • 地中に巣穴を掘る
  • 地中に産卵する
  • 幼虫期を土の中で過ごす
  • 蛹の状態で越冬する
  • 成虫のまま土中で冬を越す

といった生活史を持つものがいます。

つまり、私たちから昆虫の姿が見えなくなった時期でも、生命活動そのものがなくなったわけではありません。

土の中で休み、育ち、次の季節を待っているのです。

そこへ深さ20〜25cmのプラウを入れるということは、

単に表面の草を土へ埋め込むだけではありません。

土壌を上下に反転させ、物理的に壊し、地下に形成されていた生息空間そのものを大きく変化させる行為でもあります。


特に大型昆虫への影響が大きかった

研究では、昆虫を

  • 5mm未満の小型昆虫
  • 5mm以上の大型昆虫

に分けた解析も行っています。

2024年に確認された63,507個体のうち、小型昆虫は約92.9%。

大型昆虫は約7.1%でした。

個体数だけを見ると、大半は小さな昆虫です。

ところがバイオマス、つまり昆虫全体の「重量」で見ると、大型昆虫は非常に大きな割合を占めていました。

そして耕起の影響が特に強く現れたのが、この大型昆虫でした。

著者らは、大型種ほど、

  • 世代時間が長い
  • 発育期間が長い
  • 地中で過ごす期間が長い
  • 撹乱後の個体群回復に時間がかかる

可能性を指摘しています。

反対に小型種には、

  • 世代交代が速い
  • 撹乱に強い休眠段階を持つ
  • 頻繁に耕される環境へ適応している

種類が含まれている可能性があります。

もし耕起が繰り返されれば、

大型種を含む複雑な昆虫群集から、小型で撹乱に耐えやすい昆虫中心の群集へ変化していく

可能性も考えられます。


「耕さない時間」が昆虫群集を育てる

もう一つ興味深いのが、時間との関係です。

無耕起で維持された野草帯では、造成後の時間が長くなるにつれて昆虫バイオマスが増えていました。

特に最初の数年間で回復が大きく、

推定では、

  • 1年目:約55.7%増加
  • 2年目:約15.9%増加

という傾向が示されています。

その後、増加速度は徐々に小さくなり、4年以上ではほぼ頭打ちになると推定されました。

イメージとしては、

耕起によって昆虫群集が低い状態になる

耕さないことで徐々に回復する

最初の1〜2年間は特に大きく増える

数年かけて群集が成熟する

という流れです。

これはとても興味深い結果です。

生態系は、何もしなければ瞬間的に完成するわけではありません。

時間そのものが生態系をつくっている

とも考えられます。


数年間耕さなくても、一度の耕起で「リセット」される

さらに印象的なのが、再び耕起を行った場合です。

1年、2年、3年と耕さずに維持されてきた野草帯でも、その後プラウを入れると昆虫バイオマスは大きく低下しました。

推定値では、

  • 造成1年後の耕起:約55.3%減
  • 造成3年後の耕起:約67.4%減

となっています。

著者らは、この現象を昆虫群集が低い基準状態へ**「reset」されるような効果**として説明しています。

この結果からは、

「何年か耕さなかったから、今年一度くらい全面を耕しても大丈夫」

とは必ずしも言えないことが分かります。

少なくとも今回のような強いプラウ耕では、数年間かけて形成されてきた地下の昆虫群集が、一度の大きな撹乱によって再び低い状態へ戻る可能性が示されています。


春耕と昆虫の「生命暦」が重なる

私は、この研究を読んで特に興味深いと感じたのが、

農作業の時期と昆虫の生活史が重なっている

という点です。

多くの昆虫は、

夏から秋に繁殖し、

冬を土の中で越し、

春に羽化して活動を始めます。

たとえば、

夏〜秋
繁殖・産卵・営巣


幼虫・蛹・成虫などの状態で越冬


羽化・活動開始

という時間が流れています。

ところが農作業の側では、

春になると播種や定植の準備として耕起を行うことがあります。

つまり、

昆虫がまさに次の季節へ出てこようとしている時期に、土を大きく動かす

ことになる場合があります。

人間から見れば、

「春になったので畑を耕す」

という一年の農作業です。

しかし昆虫から見れば、

「半年以上かけて続けてきた生活史の途中で、生息場所そのものが反転する」

出来事かもしれません。

この視点は、これからNatuVegeGardenで考えていきたい「生命暦」とも深くつながっています。


自然農で「土を動かさない」ことのもう一つの意味

自然農では、基本的に土を大きく耕しません。

これまで不耕起のメリットは、

  • 土壌構造を壊しにくい
  • 土壌微生物の環境を保つ
  • 菌根菌などのネットワークを維持する
  • ミミズなどの土壌動物を守る
  • 水分を保持しやすい
  • 土壌炭素を保持する

といった視点から説明されることが多くありました。

今回の研究は、そこへもう一つ、

「地下で生活史を送る飛翔昆虫の生息環境を維持する」

という視点を加えてくれます。

もちろん、この研究が自然農そのものを調査したわけではありません。

ですから、

「この論文によって自然農の正しさが証明された」

という言い方は適切ではありません。

しかし、

土壌を大きく攪乱しない管理には、作物や土壌微生物だけではなく、地下で次の季節を待っている昆虫の生活史を維持する意味もあるのではないか

という示唆は、十分に読み取れると思います。


「雑草をなくすために全面耕起する」を一度問い直す

ここからは、この論文からNatuVegeGardenとして考えたことです。

一般的な畑では、草が増えると、

「一度全面を耕してきれいにしよう」

となることがあります。

確かに耕起は、雑草処理という目的に対して非常に即効性があります。

しかし、生態系全体から見ると、その作業が処理しているのは草だけではありません。

同時に、

  • 地中営巣昆虫
  • 越冬昆虫
  • 土壌動物
  • 地表のリター層
  • 土壌構造
  • 微生物群集

などにも影響を与える可能性があります。

そう考えると、

雑草がある=全面を耕す

という判断を、自動的に選ぶ必要はないのではないでしょうか。

自然農では、草を完全になくすことを目標にしません。

大切なのは、作物と草の競合を必要な範囲で調整することです。

たとえば、

  • 草を高めに刈る
  • 刈った草を草マルチとして利用する
  • 作物の株元だけ草を整理する
  • 播種する部分だけ表土を動かす
  • 作物より草が優勢になった場所だけ管理する

といった方法があります。

私自身も畑では、草をすべてなくすのではなく、

作物が負けない程度に草との関係を調整する

ことを意識しています。

もちろん今回の論文は、高刈りや草マルチが昆虫保全にどれほど有効かを直接比較した研究ではありません。

したがって、

「高刈りなら昆虫への影響がない」

とまでは言えません。

ただ、

畑全体を一度に20〜25cm反転させる管理と、必要な場所だけを局所的に動かす管理では、土の中の生物に与える撹乱の大きさは違うのではないか

という問いを持つことには、大きな意味があると思います。


昆虫が減ることは、農業にも返ってくる

土から羽化する昆虫は、ただそこに存在しているだけではありません。

昆虫は農地の中で、

  • 花粉を運ぶ
  • 害虫を捕食する
  • 害虫へ寄生する
  • 他の生物の餌になる
  • 植物の繁殖を助ける
  • 花粉や遺伝子を移動させる

など、さまざまな役割を担っています。

農業では、作物の収量だけを見てしまいがちですが、畑は作物だけで成立しているわけではありません。

土壌、植物、昆虫、鳥、微生物など多くの生物が関係し、その結果として農地の生態系が維持されています。

大型昆虫を含む昆虫バイオマスが減っていけば、その影響は食物連鎖や送粉、害虫抑制などを通じて、巡り巡って農業そのものへ返ってくる可能性があります。


この研究を読むときに注意したいこと

今回の研究は非常に興味深いものですが、いくつか重要な限界があります。

作物畑そのものを調べた研究ではない

研究対象は、農業地域に設けられた多年生の野草帯です。

一般的な作物畑や、日本の自然農圃場を直接調査したものではありません。

深さ20〜25cmの強いプラウ耕である

今回の耕起は、モールドボードプラウによって土を大きく反転させる方法です。

家庭菜園で表面を数cmだけ削る場合や、小型耕うん機による浅い耕起まで同じ62.5%の減少が起こるとは言えません。

特定の昆虫種が62.5%減ったわけではない

この研究では、すべての昆虫を種レベルで体系的に同定したわけではありません。

したがって、

「ミツバチが62.5%減った」

「ハナアブが62.5%減った」

とは言えません。

正しくは、

土壌から羽化した飛翔昆虫群集全体のバイオマスが平均62.5%低かった

という結果です。

調査期間は2年間

10年、20年と長期間にわたって同じ場所を追跡した研究ではありません。

年ごとの天候の影響もある

2024年は2023年より全体的に昆虫バイオマスが低く、春の降水量など気象条件の影響も考えられています。

こうした限界を踏まえたうえで研究結果を読む必要があります。


土を耕すということは、「生命の時間」を動かすこと

私たちは、畑の地表に現れているものだけを見て農作業を判断しがちです。

草が伸びた。

だから刈る。

あるいは耕す。

けれども、見えている草の下には土があり、その土の中では人間の目には見えない時間が流れています。

昆虫が越冬し、

幼虫が育ち、

蛹が春を待ち、

微生物が有機物を分解し、

植物の根が広がっています。

今回の研究が示したのは、その地下の世界に対して、耕起が思っている以上に大きな影響を与える可能性があるということでした。

だからこそ、私は畑を管理するとき、

「この作業は本当に全面に必要なのか」

と一度考えることが大切だと思っています。

全面を耕さなくても、

必要なところだけ草を刈る。

作物の周囲だけ整理する。

播種する場所だけ土を動かす。

草を利用して地表を覆う。

そんな小さな選択の積み重ねによって、農作業による撹乱を少しずつ小さくできるかもしれません。

雑草をなくすことを最優先するのではなく、

作物と草と昆虫と土が共存できる範囲を探す。

それも自然農の大切な考え方の一つではないでしょうか。


まとめ

2026年に発表されたHellerichらの研究では、ドイツの多年生野草帯に深さ20〜25cmのプラウ耕を行った結果、土壌から羽化する飛翔昆虫のバイオマスが無耕起区より平均62.5%低くなりました。

特に5mm以上の大型昆虫への影響が大きく、耕さない期間が続くほど昆虫群集は回復していく一方、一度強い耕起を行うと再び低い水準へ戻る傾向も確認されました。

この研究だけで、

「すべての耕起は悪い」

「自然農が科学的に証明された」

と言うことはできません。

しかし一つ、非常に大切なことを教えてくれます。

土の中は空白ではない。

そこには、次の季節を待っている生命があります。

土を耕すという行為は、雑草だけを処理しているのではありません。

その土の中で続いている生命の時間も、一緒に動かしている。

だからこそ、

雑草をなくすために、畑全体を毎回耕す必要は本当にあるのか。

一度立ち止まって考えてみる価値があるのではないでしょうか。


参考論文

Hellerich, C., Garratt, M., Klein, A.-M., Fornoff, F., Mupepele, A.-C.
“Reducing ploughing promotes ground-nesting flying insects.”
Agriculture, Ecosystems & Environment 405 (2026) 110399.
DOI: 10.1016/j.agee.2026.110399

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