2026年8月、世界の食料価格について気になるニュースが報じられました。
米金融大手JPMorganが、世界の食料インフレ率が2026年前半の約2.8%から、2027年前半には約5%まで上昇する可能性があると警告したというものです。[1]
約2倍という数字だけを見ると、「食料価格が2倍になるの?」と思ってしまいますが、そういう意味ではありません。
ここで約2倍になるとされているのは、**食料価格そのものではなく「価格の上昇率」**です。
それでも、食料価格の上昇が現在より加速するのであれば、私たちの暮らしはもちろん、農業にも大きな影響が及びます。
今回JPMorganが警戒しているのは、一つの原因ではありません。
戦争や地政学的緊張、異常気象、肥料、エネルギー、水、穀物在庫など、複数の問題が重なることです。
この記事では、JPMorganの警告を手がかりに、今後の食料事情、そして自然農のような「外部資源への依存を減らす農業」が持つ意味について考えてみます。
JPMorganが警戒する「5つのW」
2026年8月17日にBenzingaが報じた記事によると、JPMorganは世界の食料インフレを押し上げるリスクを「Five Ws(5つのW)」として整理しています。[1]
その5つとは、
- War:戦争・地政学的緊張
- Weather:気象
- Warehousing:在庫・備蓄
- Water:水
- Waste:廃棄・供給網の非効率
です。
一つ一つは、以前から世界の農業が抱えてきた問題です。
しかし今回重要なのは、これらが同じ時期に重なる可能性があることです。
例えば、
異常気象で穀物生産量が減少する。
そのタイミングで中東情勢が悪化する。
石油や天然ガス価格が上昇する。
肥料価格も上昇する。
さらに物流が混乱する。
こうしたことが同時に起これば、それぞれの影響が互いを増幅する可能性があります。
単純な「足し算」ではなく、複数のショックが連鎖することこそ、今回の警告の本質だと私は考えています。
ホルムズ海峡が、なぜ食料価格に関係するのか

今回JPMorganが特に注目している一つが、中東のホルムズ海峡です。
ホルムズ海峡は世界のエネルギー輸送における重要な海上交通路ですが、農業とも無関係ではありません。
Benzingaが紹介したJPMorganの分析によれば、2025年の世界の尿素輸出に占める割合は、
- カタール:約9.3%
- イラン:約8.4%
とされ、両国だけでも約18%を占めています。[1]
尿素は、世界で広く利用されている窒素肥料です。
ホルムズ海峡周辺で輸送障害が発生すれば、肥料の供給や価格に影響が及ぶ可能性があります。
さらに、原油や天然ガスの価格が上昇すれば、
エネルギー価格上昇
↓
肥料・農業資材価格上昇
↓
農家の生産コスト上昇
↓
食品加工・物流コスト上昇
↓
食料価格上昇
という連鎖も考えられます。
食料価格は、畑でどれだけ作物が採れたのかだけで決まっているわけではありません。
現代の食料システムは、エネルギー、肥料、輸送、国際物流と強く結び付いています。
もう一つの大きなリスク「エルニーニョ」

もう一つ、2026~27年にかけて注目すべきなのがエルニーニョです。
米国海洋大気庁(NOAA)は2026年8月13日の見通しで、エルニーニョが今後さらに強まると予測しています。[2]
特に注目されるのが、
2026年10~12月に、1950年以降の過去のイベントを上回る規模になる確率を69%
としている点です。
また、2026年秋から2027年冬にかけて「非常に強いエルニーニョ」になる確率を90%超としています。[2]
かなり高い確率です。
強いエルニーニョが発生すると、世界各地で降水量や気温のパターンが変化する可能性があります。
地域によって、
- 干ばつ
- 豪雨
- 洪水
- 高温
- モンスーンの変化
などが発生し、農作物の収量に影響することがあります。
ただし、ここは慎重に見る必要があります。
NOAA自身も、非常に強いエルニーニョが発生したからといって、典型的な気象影響がすべての地域で必ず起きるわけではないとしています。[2]
したがって、
「強いエルニーニョが来るから2027年は必ず世界的大凶作になる」
と考えるのは飛躍があります。
重要なのは、複数の主要生産地域で同時に収量低下が起こるかどうかです。
現在すでに「世界食料危機」なのか
ここも冷静に見ておきたいところです。
国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は、2026年7月に131.1ポイントとなりました。
前月から0.6%、前年同月から1.0%上昇しています。[3]
特に穀物価格指数は前月比3.4%、前年同月比6.9%上昇しています。
確かに価格上昇の兆候は見えています。
一方で、世界の食料価格指数は、ロシアによるウクライナ侵攻直後の2022年3月につけたピークと比較すると、まだ18.2%低い水準です。[3]
つまり現時点では、
「世界の食料がすでに不足している」
という状況ではありません。
むしろ、
食料価格を押し上げる条件が少しずつ重なってきている
と捉える方が適切でしょう。
本当に2027年に食料インフレは急上昇するのか
JPMorganの約5%という数字も、確定した未来ではありません。
例えば米国農務省(USDA)は、2026年7月時点のFood Price Outlookで、米国の2027年の家庭向け食品価格について、中心予測を前年比2.9%上昇としています。[4]
JPMorganの世界食料インフレ約5%とは、かなり違います。
しかし興味深いのはUSDAの予測幅です。
2027年の家庭向け食品価格について、
-5.6%~+12.3%
という非常に広い予測区間を示しています。[4]
これは、2027年の食品価格を取り巻く不確実性が非常に大きいことを示しています。
ですから重要なのは、
「5%という予測が当たるか外れるか」
ではありません。
2027年に向けて価格変動を大きくする要因が複数存在している
という点です。
日本は世界の食料・資材価格変動に弱い
この問題を日本の農業に置き換えて考えてみます。
日本では米や野菜など多くの農産物が国内で作られています。
しかし、その農産物を作るための資材まで国内で賄われているわけではありません。
特に化学肥料については海外依存度が非常に高く、農林水産省も主要な肥料原料である
- 尿素
- りん酸アンモニウム
- 塩化加里
のほとんどを輸入に依存しているとしています。[5]
過去の農林水産省資料では、りん酸アンモニウムと塩化加里はほぼ全量、尿素も95%前後を輸入に依存していました。[6]
これは、日本国内で野菜や米を栽培していても、
その生産を支える資材については海外の情勢に大きく左右される
ということです。
実際、農林水産省が2026年9月に公表している肥料原料の通関価格を見ると、尿素やりん安の価格は2026年前半に大きく変動しています。[5]
ここへ、
- 原油高
- 国際物流費上昇
- 円安
などが重なれば、日本の農業生産コストはさらに上昇します。
食料不足より先に「高くて買えない」が来る可能性
私は、日本では世界的な食料不安が高まったとしても、
スーパーから突然食料が消える
という形が最初に来る可能性はそれほど高くないと考えています。
むしろ現実的なのは、
食料はあるけれど、高くて買いにくくなる
という問題でしょう。
小麦価格が上がる。
飼料価格が上がる。
肥料価格が上がる。
燃料価格が上がる。
物流費が上がる。
そして円安まで重なる。
すると、パンや麺だけではありません。
肉、卵、乳製品、野菜、加工食品など、非常に広い食品の価格へ影響します。
これは生産量だけの問題ではなく、「食料へのアクセス」の問題でもあります。
ここで自然農をどう考えるか
こうしたニュースを見ると、
「化学肥料を使わない自然農なら肥料価格が上がっても大丈夫」
と言いたくなります。
しかし、それだけでは少し単純すぎると私は思っています。
自然農でも、
燃料を使います。
道具を買います。
種を購入することもあります。
農産物を販売すれば輸送も必要です。
異常気象そのものから逃れられるわけでもありません。
ですから、
「自然農なら食料危機を解決できる」
という話ではありません。
私が重要だと考えているのは、
外部から買わなければ農業が成立しない部分を、少しずつ減らしていく
という考え方です。
「効率の良い農業」から「壊れにくい農業」へ

現代農業では長い間、
単位面積当たり、どれだけ多く収穫できるか
という生産効率が重要視されてきました。
もちろん、収量は非常に重要です。
しかし世界情勢が不安定になるほど、もう一つの評価軸が必要になるのではないでしょうか。
それが、
「壊れにくさ」
です。
例えば、
肥料価格が2倍になったら採算が合わない。
燃料価格が大幅に上がったら生産できない。
輸入資材が止まったら栽培できない。
毎年種を購入しなければ翌年の栽培ができない。
こうした農業は、平常時には非常に効率的でも、外部環境が変化すると急に脆弱になる可能性があります。
一方で、
- 自家採種する
- 輪作する
- 草を利用する
- 落ち葉を利用する
- 土壌有機物を増やす
- 地域に存在する資源を循環させる
- 複数の作物を育てる
- 地域内で食料を流通させる
といった仕組みは、外部ショックへの依存度を下げる方向に働きます。
農林水産省自身も、輸入依存度の高い農業生産資材について、国内の未利用資源などを活用し、国内で生産できる代替物へ転換していくことが重要だとしています。[7]
これは自然農だけの話ではありません。
有機農業、循環型農業、地域農業などにも共通するテーマです。
土壌劣化の問題ともつながっている
以前NatuVegeGardenでは、世界的な土壌劣化についての研究も紹介しました。
今回の問題も、実はそこにつながっています。
世界の農業が抱えている問題には、
- 土壌侵食
- 土壌有機物の減少
- 水不足
- 生物多様性の低下
- 異常気象
- エネルギー価格
- 肥料価格
- 地政学リスク
があります。
一見、それぞれ別の問題に見えます。
しかし私は、これらを
「現在の食料生産システムの余裕が少しずつ減っている」
という一つの問題として見る必要があるのではないかと考えています。
一つの問題なら何とか対応できる。
二つでも対応できるかもしれない。
しかし複数の問題が同時に起きたとき、システムは急に弱くなります。
今回のJPMorganの警告で私が最も重要だと感じるのも、この部分です。
NatuVegeGardenで考えていること
私自身、長野県小諸市で自然農に取り組みながら、
大豆や固定種の野菜を育て、
種をつなぎ、
草を刈って畑に戻し、
地域で手に入る落ち葉なども活用しています。
これまでは、
農薬や化学肥料になるべく頼らずに作物を育てる
という意味を強く感じながら自然農に取り組んできました。
しかし最近は、もう一つ大きな意味があるのではないかと感じています。
もし肥料価格が大幅に上昇したら。
もし石油価格が高騰したら。
もし海外から農業資材が入りにくくなったら。
それでも、
できるだけ地域にあるもので食料を作り続けられる仕組みをつくる。
自家採種もその一つです。
草を利用することもその一つ。
落ち葉を利用することもその一つ。
大豆とライ麦などを組み合わせた輪作もその一つです。
一つ一つはとても小さな取り組みです。
しかし、外部環境が不安定になればなるほど、こうした小さな循環が持つ意味は大きくなっていくのではないでしょうか。
自然農の社会的な意味
自然農というと、
「農薬を使わない」
「化学肥料を使わない」
「安心して食べられる野菜を作る」
というイメージが一般的だと思います。
もちろん、それも大切です。
しかしこれからは、
地域に存在する資源を生かしながら、外部環境が変化しても食料を作り続けるための農業
という意味も、より重要になってくるのではないでしょうか。
自然農がすべての農業を置き換える必要はありません。
大量の食料を安定して供給する農業も必要です。
その一方で、
効率だけを追求する農業とは違う、
「多少状況が変わっても壊れにくい農業」
を地域に残しておくことにも大きな価値があると思います。
まとめ|大切なのは「予言」ではなく「備えること」
JPMorganが示した2027年の食料インフレ予測は、あくまでも将来予測です。
必ず5%になるわけではありません。
現在の世界食料価格も、2022年のピークよりまだ低い水準にあります。
ですから、
「2027年に世界食料危機が来る」
と断定するのは適切ではないでしょう。
しかし、
- ホルムズ海峡をめぐる地政学リスク
- 強いエルニーニョ
- 肥料価格
- エネルギー価格
- 水不足
- 穀物在庫
- 為替
といった複数のリスクが存在していることも事実です。
だからこそ、
「食料危機が来るか、来ないか」
を予言するよりも、
何が起きても、できるだけ食料を作り続けられる仕組みをつくっておく。
その方が大切なのではないでしょうか。
種を採る。
土を育てる。
草を利用する。
落ち葉を利用する。
地域で作る。
地域で食べる。
こうした一つ一つの営みは、とても小さなものです。
しかし世界が不安定になるほど、その小さな循環の価値は大きくなります。
NatuVegeGardenでも、実際の畑で試行錯誤しながら、
「外部資源になるべく依存しない、壊れにくい農業」
という視点を、これからも記録していきたいと思います。
参考資料・出典
[1] Benzinga(2026年8月17日)
“JPMorgan Says Hormuz Tensions and a Possible Super El Nino Could Trigger a Global Food Crisis by 2027”
JPMorganによる世界食料インフレ予測、Five Ws、ホルムズ海峡・尿素供給等について参照。
[2] NOAA Climate Prediction Center(2026年8月13日)
“ENSO Diagnostic Discussion”
2026~27年のエルニーニョ見通し、非常に強いエルニーニョとなる確率、2026年10~12月の予測等を参照。
[3] FAO(国連食糧農業機関、2026年8月7日)
“FAO Food Price Index”
2026年7月の世界食料価格指数、穀物価格指数、2022年3月ピークとの比較を参照。
[4] USDA Economic Research Service(2026年7月予測)
“Food Price Outlook – Summary Findings”
2027年の米国食品価格および家庭向け食品価格の予測値・予測区間を参照。
[5] 農林水産省「肥料の価格情報」
2026年9月更新。尿素・りん安・塩化加里の国際価格、通関価格、輸入状況を参照。
[6] 農林水産省「世界的な食料情勢の変化による食料安全保障上のリスクの高まり」
日本の化学肥料原料について、りん酸アンモニウム・塩化加里のほぼ全量、尿素の約95%を輸入に依存している状況を参照。
[7] 農林水産省「我が国における農業生産資材供給の状況」
肥料・飼料などの農業生産資材の安定確保と、輸入依存度の高い資材を国内資源へ転換する必要性について参照。
※本記事は2026年9月時点で公表されている情報をもとに作成しています。将来の気象、農産物生産量、国際情勢、食料価格等は変化する可能性があります。


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