はじめに
ヘーゼルナッツを植えて数年、楽しみにしていた収穫が「実がほとんどつかない」「殻だけで中身が空っぽ」という経験はありませんか?
この“ブランクナッツ(空打ち)”は、単なる偶発ではなく 受粉・水分栄養・気象・害虫といった複合要因で起こる現象です。
本記事では、オレゴン州立大学(OSU)や欧州の研究事例+小諸(寒冷乾燥地)での栽培実例をベースに、原因と改善の方向性を整理します。
実がならない・中身が空になる主な原因

① 受粉不良(最重要)
- ヘーゼルナッツ(Corylus avellana)は自家不和合性。同じ木の花粉では実になりません。
- OSUの推奨:
- 受粉樹を園内に約11%配置(3×3パターン)
- 距離は15m以内
- 早・中・晩咲タイプを組み合わせる
👉 Growing Hazelnuts in the Pacific Northwest: Pollination and Nut Development | OSU Extension Service
② 夏の乾燥と栄養不足(特にホウ素B・カリK)
- 受粉は冬~初春ですが、受精は6月中旬、仁の肥大は7–8月に集中。
- この時期に乾燥や栄養不足があると、胚が育たずブランク化。
- OSU報告:5月中旬にホウ素葉面散布で着果群維持率が最大+33%。
👉 Growing Hazelnuts in the Pacific Northwest: Orchard Nutrition | OSU Extension Service
③ 冬の寒波による雄花凍害
- 雄花は−9℃前後で被害、雌花も一部品種で−12℃前後で被害。
- 寒波の年は「花粉ゼロ年」→受粉不良につながる。
👉 Growing Hazelnuts in the Pacific Northwest: Introduction | OSU Extension Service
④ カメムシ類の被害
- 6–7月に核形成期の吸汁を受けると、胚が止まり空打ち化。
- 欧州では“cimiciato”と呼ばれ、収量減だけでなく品質にも影響。
👉 How to Recognize Brown Marmorated Stink Bug Damage in Commercial Hazelnuts | OSU
👉 Hazelnut Cultivars and Incidence of Damage by Halyomorpha halys (University of Naples)
⑤ ビッグバッドダニ
- 芽が腫れて奇形化し、雌花の数が減少。冬芽で確認可能。
👉 Hazelnut-Filbert Bud Mite | Pacific Northwest Insect Management Handbook
圃場での診断ポイント
- 花粉紙テスト:黒紙に振って花粉量を確認。
- 受粉樹の距離:15m以内に複数品種があるか。
- 葉分析(8月):B 30ppm以下は不足、200ppm超は過剰。K不足も要注意。
- 冬芽観察:big bud比率を確認。
- 軽い殻や早期落果:カメムシの初期被害サイン。
対策の方向性
受粉樹の導入(最優先)
- 相性の良い3品種(早・中・晩咲)を補植。
- 全域に分散させ、風上にも配置。
- 剪定で雄花芽を落としすぎない。
夏の水・栄養管理
- 6–8月の潅水が決定打。樹冠5年生で40L/日が一つの目安。
👉 How much water do my hazelnut trees require? (Ontario Specialty Crops Blog) - 5月中旬にホウ素葉面散布(1回/過剰厳禁)。
- カリ(K)補給:土壌・葉分析に基づき施肥。
気象・害虫対策
- 冷気溜まりを避けた園づくり。
- 雄花耐寒性品種を混植。
- カメムシは6–7月を重点監視。
- ダニ芽は剪去・焼却。
小諸での実例

小諸の圃場(樹齢5年、樹高3m)では「実は数個のみ、中身空多数」。
主因は:
- 受粉樹ゼロ(致命的)
- 夏の乾燥+ホウ素不足
- カメムシ初期吸汁
まずは 受粉樹導入と夏季の潅水・B管理 が改善の第一歩です。
来季アクションカレンダー(小諸版)
- 2–3月:雌花・雄花の開花期観察、補植計画。
- 4月:big bud芽の剪去処分、潅水設備確認。
- 5月中旬:ホウ素葉面散布。
- 6–8月:潅水徹底、カメムシ監視。
- 8月:葉分析(B・K・N)。
- 収穫期:ブランク率を記録 → 翌年改善に反映。
まとめと次回予告
- ブランクナッツは受粉不良+夏の水分栄養不足が最大要因。
- 特に 受粉樹の不足は致命的で、まずは補植計画から着手すべき。
- 次回は、現在日本でも導入されているトンデ系品種(例:トンデジェントレー)に適合する具体的な受粉樹候補リストを紹介します。
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